大都市の真ん中、600㎡に満たない土地に150名近い子どもたちの拠点をつくる。
子どもたちの育ちに取り組んできた池内わらべの60年の長い日常の連続はひとつの文化を培ってきたと言っても過言ではない。園舎は池内わらべ保育園という子育て文化の器である。
園舎に多くはいらない。気持ちよく遊んで、食べて、 寝て、出すスペースがあることと、いつでも逃げる込むことのできる安心な場所であると子ども達が感じられること。
街の中にも自然はたくさんある。空、太陽、 風、 雨、 雷、、。逆に、ここにしかないものもあるだろう。「今日も面白かった。明日は何をやろう。」の毎日が子どもたちを育てていく。
屋上園庭の空の広さ。ゆっくり流れていく雲は雄大な気持ちになる。
ここなら大丈夫、子どもたちの育ちを見守れそうだ。
長い年月を経て、次の園舎にバトンを渡す日まで、子どもたちの育ちを大切にする文化の器として。
限られた敷地に、350㎡の園庭と1100㎡を越える床面積の建物を計画するために、南東に開くL型の総3階建て建物としました。
3階建てともなると全体のつながりが希薄になります。ヨコ方向にはテラス、タテ方向には2つの屋外階段をもうけて一体感を感じられるようにしました。
0・1歳児保育室は、土の園庭の利用や散歩・避難のしやすさから1階に配置。
2歳児保育室は、園庭の利用のしにくさを広めのテラスや隣接する遊戯室で補いながら2階に配置しました。
3-5歳児保育室は、屋上園庭の利用のしやすさから3階に配置。クラス同士のつながりを重視して同じ階にまとめました。
限られた敷地を最大限に利用するため、建物高さを10m以内に計画して日影規制を避け、北側道路ギリギリまで建物を建てられるようにしました。
そのため階高は3.1mとなりましたが、保育室の天井高さを年齢に応じて乳児2.4m 2歳児2.5m・3~5歳児・ホール2.6mとしつつ、あえて一部の天井を低くすることで圧迫感を緩和しています。
全体の平面計画は南・東側(園庭側)に開放的にして陽ざしを取り入れ、北・西側に閉じて冬の季節風を防いでいます。さらに北西側の開口部は断熱性能を上げるため風の通り道のための最小限としています。結果、道路に面するファサードの外観は閉鎖的な印象となりますが、1階0歳児の小さな北側テラスや乳母車乗降スペース、玄関周りや2階遊戯室バルコニーは子どもたちが手に触れるため外壁を杉板にしています。一部にのぞく杉板が外観的に柔らかさをもたらすようにしました。
玄関は既設園舎を改造しました。玄関前のアプローチ庇を鉄筋コンクリートとすることで既設と増築部分との一体感を高めました。粟代杉のシンボルツリー、ステンドガラス、杉板仕上げにより玄関として柔らかく整えました。手洗い・足洗シャワー・乳母車置き場に加え、防災的な観点から公衆電話を残しました。
玄関は既設園舎を改造しました。玄関前のアプローチ庇を鉄筋コンクリートとすることで既設と増築部分との一体感を高めました。粟代杉のシンボルツリー、ステンドガラス、杉板仕上げにより玄関として柔らかく整えました。手洗い・足洗シャワー・乳母車置き場に加え、防災的な観点から公衆電話を残しました。
職人の手で仕上げられた凹凸がうろこ状に光る。玄関の上がり桓は東栄町粟代の大杉に手斧(ちょうな)仕上げを施した厚板を用いました。毎日毎日すべての子どもたちと大人が足で触れます。
給食室は、1階玄関ホールに面していて、 誰もが立ち寄りやすい位置にあり、2・3階に上がる階段からものぞけるようになっています。2・3階保育室へはワゴンに載せてエレベーターで運びます。給食の先生も子どもたちとのやり取りを大切にしています。
給食室の先生と2・3階の子どもたちがもっとつながれるように工夫することが今後の課題です。
0歳児保育室は定員5名~9名の10~12畳の小さな3つの保育室とサンルムを設け、生活に合わせて一体的に使ったり個別に使えるようにしています。
0歳児保育室の照明は調光タイプとして、必要な明るさに細かく調整できるようにしました。
家具も含めて2歳児保育室は乳児保育室と同じ。天井高さが100mm高く2.5m。
1歳児保育室も0歳児同様に18畳程度の8名定員3つの保育室と園庭側にサンルームを設けています。保育室に面してトイレを設け自分でできることを増やしていきます。
保育室前のサンルームと一体的に使います。サンルーム越しに粟代杉のシンボルツリーが見えます。
保育室前のサンルームと一体的に使います。お隣の保育室ともつながれます。
園庭に面したサンルームでゆっくりご飯を食べます。
2歳児保育室は12名定員2クラス。設置基準面積は2歳未満児は3.3㎡/人に対し2歳児以上は1.98㎡/人であり、8人定員の1歳児室と12人定員の2歳児保育室はほぼ同じになります。
基準によらず広めに計画したかったのですが、目の前のテラスを広めに計画したり、同じ階にあるホール(遊戯室)を活用しやすく計画するにとどまりました。広めのテラスはプールや三輪車など園庭的に利用します。
トイレの出口脇にシンクを設けて子どもが自分で手を洗うなどに使います。鏡を見ながら自分でできることを増やしていきます。多少の水をこぼしても大丈夫なように床を天然リノリウム張りとしています。
3~5歳児保育室は20名定員26畳ほどの広さで、4つの保育室を配置しました。2室一組でトイレを共有しています。保育室間の建具を開放すれば一体的に使えます。3階はテラスでつながる幼児だけの一体的空間です。
2階建ての多い地域で3階のテラスは開放的です。2つの屋外階段により屋上園庭や1階園庭に行きやすくし、テラス・屋外階段・園庭がつながった立体園庭として都市にある保育園でありながら伸びやかさや気持ちよさを感じるものとしました。
一時保育室は既設建物の2階に配置しました。園に慣れない子もいるので、「離れ」のような落ち着きのある場所に配置しました。同じ階にある遊戯室やプールもできる大きなテラスにお出かけして遊びます。
遊戯室(ホール)は3面にテラスを設けて足元まで明るく風通しを良くしました。 このテラスは様々な催しの際に遊戯室と一体的に使ったり、サブ動線として活用できます。スライディングウォールで2室に分けて使えるようになっていたり、休みの日にホールだけ貸し出すことも可能にしてあります。
保育園の有志が集まり豊田市の山中で土壁の下地となる竹小舞の材料づくりをしました。竹を伐り出し、蛇や鋳物の竹割りを使って長さ2000mm巾30mmに整え500本を揃えました。竹の材料の向きや編む手順は理にかなっています。慣れてくると無言となり作業がはかどり始めます。
現場では大直し、中塗りの2工程を行いました。
屋上園庭はプールや三輪車などの利用をふまえてコンクリート下地ゴムクッション仕上げとしました。ささやかに野菜を育てる菜園も設けました。市街地ながら周りは2階建てが多く、3階の屋上は実に空が広く、空の端から端まで流れる雲は雄大な気持ちにさせてくれます。ここには、街の中の一味違った自然があるのです。
庇の先端を薄く見せ、3階テラスより張り出すことでおおわれたような印象になります。
3階建てのテラスの圧迫感を減らすため、テラスの先端を揃えず、奥行を2階と屋上の庇は出幅を大きくしています。園庭・テラス全体を覆うイメージで屋上の庇を張り出すことで一体感を高めました。2階は2歳児のテラス面積を大きくするためと天井の出幅が小さくなり開放感が増すように工夫しています。夏の朝の陽ざし対策のためのロールブラインドは雨の吹込みを緩和すると同時にテラスに屋内的な落ち着きが欲しい時に活用できます。テラスを第二の保育室として充実することで各階の保育室同士のつながりや不足する保育室面積を補完しました。テラスからは上や下の階の様子が互いに見え、3つの階に分散した園につながりを感じられるようにしました。
保育室は2歳未満3.3㎡、2歳以上1.98㎡という設置基準で計画しています。各保育室は可能な限り太陽に顔をむけるように南東に向けて開いています。 テラス近くは天井が高く明るく活動的な場所とする一方、奥へ行くほど天井が低く狭く囲われてほの暗く、ホッとできる場所になるようデザインしました。子どもたちの気持ちはこのホッとできる奥の場所からテラス、園庭、空へと伸びやかにつながることをイメージしました。
構造はいたってシンプルな柱梁によるラーメン構造で、壁も最小限にしています。
単純な構造で地震時の挙動を明瞭にしています。また、コンクリートの壁がないことで将来の改修やプラン変更をしやすくしています。コンクリートを鉄骨下地の断熱した外皮で覆うことで外気や雨から守り中性化のリスクを減らし、長く使える骨格としました。
建物高さが法的に10mに制限される中で、梁の高さによる圧迫感を少なくするためPRC工法(太いワイヤーを梁の中に仕込みコンクリートが固まる途中で引っ張り上げる)で梁の高さを100mm低くしました。小さな寸法に感じますが、保育室の開口を高くでき、大きな効果を生みました。
丸柱の太い主柱を円状の鉄筋で拘束して外に膨らまないします。装置は鉄筋を継ぐためのガス圧接器。
コンクリートが一定の強度になるまではたくさんの支柱で支えます。
保育園にはエアコンと床暖房が必需品ですが、床暖房は床材への熱的負担が大きく床の材料が限定されます。今回、杉を活用するため幅射式冷暖房方式を採用しました。パネル状にした配管の中に温水・冷水を通し、天井・壁・床に蓄熱し表面から発せられる幅射熱で温熱環境を整える方式です。屋根・外壁・床下とも慎重に断熱エ事を行いました。 杉のフローリングは蓄熱性が高く幅射冷暖房に適しています。むき出しになったコンクリートの梁柱も蓄熱体として冷暖房にも寄与しています。
パネル式輻射冷暖房
屋上は熱負荷が高いため、床スラブの上と下にポリスチレンフォーム厚50mmで厳重に断熱しています。
コンクリート部分はポリスチレンフォーム厚50mmで外断熱
床下断熱は高性能グラスウール厚100mm敷
園庭側のランマや開き戸から風が入り、保育室奥の小窓から抜けていきます。トイレの換気扇は換気量が多めに設定してあるので臭いが漏れにくくなっています。
風を入れるテラス側のランマ窓と開き窓
建物はとてもたくさんの職人さんたちの手で作られます。建物の表面には出てこない杭を打ち込んだり、たくさんの鉄筋をくみ上げたりして建物を支えています。日頃見ることができない建設現場の囲いの中では、職人さんたちが途方に暮れるような作業を積み上げているのです。
短い工期に複雑な建物。年齢によって保育室の寸法や設備が少しづつ違うことに注意をはらいながら、黙々と進む現場。
複雑な天井の下地を溶接で納めています。
事もなげにきれいに仕上げていく左官工事伐採されだ杉の枝を払っています。
コンクリート打ち放し部分にも耐久性を上げる保護塗装。
東栄町粟代の廃校になった小学校を園で活用させてもらっているご縁から、隣接する神社の杉を利用してくださいと声をかけて頂きました。杉が風で倒れたことから安全のため止むなく伐ることになったとのことです。長年地域を見守ってきた鎮守の大杉を心して使わせてもらいました。
人間の大きさと比べてください。大枝も太いものは150年近い年輪を刻んでいます。この大枝を薄く製材したものに卒園児たちが自ら真爺釘でステンド。ガラスを留め付けて室名札を作りました。
東栄町粟代神社の樹齢200年を越える大杉の伐採。空師が登り枝をはらい、伐採の準備をしています。
目切れしないように製材した後、杉の良さを損なわないように中温乾燥し、巾90mm厚み30mmの床フローリング材に加工しましたものです。