時・手・土・杉がもたらす住まい

時・手・土・杉がもたらす住まい 愛知県一宮市今伊勢町
時・手・土・杉がもたらす住まい

木が出迎えるアプローチ

玄関は金物を使わない伝統構法で大工さんが腕を振るった。 杉板張りの外壁仕上げで囲んだ前庭は、居間から続くテラスと一体的に利用。

時を経た良さ

 時を経たものには新しいものにはない魅力がある。古い建物に感じる懐かしさ、何かに包まれるような安堵感はどこから来るのだろう。

 人が住まう場所には、安堵感が大切だと思う。竣工して四十年以上経つ荒壁をまとったこの住まいを訪れた時にも安堵感が漂っていた。

 ただ綺麗にするのではなく、この安堵感を保ったままに改修することが一番住まい手にとって価値のあることだと感じた。

手仕事に息を吹き込む

 ジブリのイラストで複葉機を10名ほどの男どもが飛び立たないように押さえつけている様子を描いたものがある。私にとって、人の力と機械の力がバランスした幸福な時代に思いを馳せさせるお気に入りのイラストだ。このイラストは機械に頼りすぎて多くのものを捨てた現代へのアンチテーゼを感じさせる。

 昭和の中後期の住宅は現代と異なり、多くを大工と左官の手仕事でつくった。その時代に出始めた新建材は工業製品のスマートさや先進性から多用され、手仕事を新建材の仕上げの中に隠してしまった。

 手仕事で使う材料の多くが自然素材であった。それゆえに、ひとつひとつに個性があり、大工職人・左官職人はその素材を見極め、その折々で適した使い方を用い、味方につけた。その手仕事は、出来上がったものに元々の自然の息吹を残す。

 改修のため仕上げ材を撤去すると果たして、節くれてゴツゴツした赤松の連続する梁や、美しい竹林を描いた水墨画のような模様の荒壁があらわれたのだ。

  家族だんらんの温もりや、疲れた体が知らぬ間にほどける居心地の良さをもたらすために、本当は大切にしなくてはならない”時”や”手仕事”に息を吹き込むべく設計に取りかかった。

良き古さを新しい形で組み込む

 玄関は増築で、金物を使わない伝統構法の木フレームに壁は漆喰塗仕上げとし、大工さんが腕を振った。

 玄関戸は古建築で使われていたものを再生利用し、ランマ部分にはゆらゆらガラスでおさめた照明を組み込んだ。

 また、撤去時に利用しようととっておいたタイルやガラスを、玄関床に一二三石に貼ったり、足元の明るさと緑の景色を取り込むためのガラス地窓とするなど、良き古さを新しい形で組み込んだ。

土壁を活かす

 この家の特徴のひとつは、建物全体が荒壁でおおわれていることだ。荒壁とは、割竹を格子状に編んだ竹小舞という下地に荒壁土を厚づけしたもので、ボードなどに珪藻土などを薄く塗った左官仕上げとは様々な点で異なる。荒壁土は、土に藁を混ぜ、水で練って発酵させてつくる。東海三県は土どころで、荒壁の家が多くつくられてきた地域だ。漉き込まれる藁は発酵で分解され様々な長さと太さの繊維となり土をつなげ一体的にする。乾いた土のなかで発酵休眠中のわらの繊維がつなぎ材として今も働いているのだ。

  ダイニング正面の荒壁は竹小舞や藁が浮かび上がるような自然な模様になっていて実に表情豊かだ。新建材にはない深味を感じさせる。ダイニングは荒壁をそのままの仕上げとしたが、その他は中塗り仕舞といって、荒壁土に細かな藁や砂を加えた中塗土で仕上げている。少し整ったイメージだが細かな凹凸が柔らかな表情をつくりだす。荒壁下地ではないが、玄関には漆喰に荒壁の土を加えた半田という土仕上げを、床の間にはベンガラで色付けした漆喰仕上げをしている。漆喰仕上げの平滑さや白さは、住まいの内壁には清々し過ぎるので、土や顔料を混ぜ和らかな感じに仕上げたのだ。

 土壁には防火・防音など色々な性能があるが、特筆すべきは湿気の吸放出性だ。土壁のある家で結露が起こりにくいのは、土壁がその吸放湿性により湿度の変化を緩やかにしてくれているからである。土壁の住まいで、爽やかな空気を感じさせてくれるのは、この働きが貢献しているのだ。
 このように住まいを快適にする土壁を建物全体に用いながら、材料を加えたり左官の方法をかえたりすることで、その場になじむ表情をあたえ、住まいの中に組み込んでいる。

杉でくるむ

 この家は、大半を杉板で仕上げている。ひとくくりにしてしまいがちな木という材料だが、樹種によって、さらには産地や育った環境によって性質が異る。見た目に加え、油分、硬さ、含まれる成分によって使うべき場所が変わる。
 杉はその柔かさから生活の木と呼ばれており、加工性、木理、手ざわり、足ざわり、軽さ、香り、その柔らかさは生活をつつむ材料として適材だ。特に直に触れる床は歩行感がサラッとしていて軽ろやかで、はだしで歩くと大変に気持ちの良いものだ。

 また、冷たさを感じにくいのも特徴で、同じ場所に足を置いていると人肌の心地よい温かみが溜まっていることがわかる。光や音の反射も杉の細い繊維にたくさん含まれる空気によって和らげられる。まるで、杉が光や音を熟成して反射してくれるように感じる。

計画概要計画概要
計画地 愛知県一宮市今伊勢地内
構造・階数 木造平屋
竣工 令和元年(2019年)5月1日
仕上げ・仕様仕上げ・仕様
屋根 雨漏りのないことを確認の上現状のまま
 一部板金屋根は再塗装
外壁 正面庭に面する部分を杉板張り
天井 内断熱の上、杉板張り
内壁(外周り) 内断熱の上、杉板張り
内壁(内周り) 土仕上げ(荒壁のまま・中塗り仕舞・半田・色漆喰)
床 内断熱の上、杉板(赤身)張り
古材利用 玄関・居間・子ども室の木建・床板(けやき玉杢)・床柱(米檜)・玄関一二三石タイルなど
機能・設備機能・設備
設計設計
◇建築設計・監理
子ども建築デザインネットワーク
安井聡太郎一級建築士事務所
施工施工
有限会社工作舎中村建築
その他その他