蒼築舎・松木憲司

蒼築舎・松木憲司
蒼築舎・松木憲司

日本の気候風土に適した「土壁の家」。
近年、健康志向とデザイン性の向上により一般の住宅でも人気が高まっています。
その良さを誰よりも知る日本の左官職人の第一人者で、
現在は大学で学生たちに「土」の良さを伝え、
新たなプロダクト作りにも取り組んでいる「蒼築舎」代表の松木憲司さんに
「左官職人の技」と「土壁の魅力」を語っていただきました。

 

塗るのが楽しくてすぐに夢中に

 この仕事を始めたのは15歳の時です。幼馴染の父親が左官屋で、忙しかったのか頼まれて手伝ったら、とにかく塗るのが楽しくて。すぐに夢中になりました。それから41年目ですね。

 仕事が激変したのが30歳の頃。効率よく建てられるハウスメーカーのプレハブ住宅が増えて、あっという間にまちの風景が変わってしまった。木造で土壁の家が次々と取り壊されて、新建材の家がパタパタと建てられあっという間に増えていった。湿式工事は手間もかかり、乾かすのに時間がかかるので敬遠され、あっという間にクロスの壁、サイディングの壁に変わっていきました。

 

日本の気候風土に会う家を

 仕事が激減したこともありますが、このまま木と土を使った、日本の気候風土にあった家がなくなってしまうのではと危機感を感じました。まずは子どもたちに「土の良さ」を実感してもらおうと、河川敷で子どもたちと一緒に「象のすべり台」を作るイベントを開催しました。

 協力を頼みにいろんな人に会いに行きましたが、残念ながらスポンサーは見つからず、それでも廃材を使用し、職人仲間がボランティアで手伝ってくれました。ミキサー車で水を持ってきてくれたり。子どもたちが目をキラキラさせて楽しんでいて嬉しかったですね。土とか泥というと汚れると敬遠する親も多いけど、自然の素材に触れ合うことは情操教育にも大切なことです。小さい頃はみんなどろんこ遊び大好きだったでしょう? なんとしても、土の良さを知ってもらい、再び日本に土壁を広めなくちゃいけない、そんな使命感を感じて動いたことが今にもつながっています。

 
 

住処(すみか)は、人にとっての“巣”

 

 土壁の魅力は何といってもその清浄感。土壁の部屋にいると空気がスーッとしたクリアな感覚で気持ちがいい。 具体的には、調湿に優れ、梅雨や長雨の続く季節には土壁は湿気を吸い、冬の乾燥するシーズンには水分を放ち空間を潤します。

 また、ホルムアルデヒドなどの有機化学物を吸収し、消臭、吸音、防火に効果があります。 手作業のため施工に時間はかかりますが、手仕事のもつ柔らかさがあるし、視覚的にも心地いい。 日の光の当たり具合によって美しい表情を見せるのも魅力です。

人間も動物ですから、自然素材に囲まれていたほうが安心感があり、落ち着きます。 最近は、保育園や幼稚園などは、木とか土など自然素材を使って建てるところが増えてきていますね。

建築家もプロダクトデザイナーも「土」を知る必要がある

 大学で学生に「土」について教えているんです。未来を考えると、教育で巻き込んでいくことが必要だと。1日中「土」のことばかり話している、そんなヘンな先生が1人くらいいてもいいんじゃないかってね。アーキテクトでもプロダクトでも土を使える。土に関する知識は必要だと思っています。

 私も大人になってから「土」に関する本をずいぶん読んだんですよ。若いときはまったく勉強しなかったのにね。人生はずっと勉強ですよ。ただ、グラフや論文はわかりにくいので、実際に“見える化”していくことが大事。教科書にも載っていない、現場の「土の建築」を教えられる先生になりたいですね。

 

自分のことを「土のお医者さん」と思っている

 

 土壁の効能について、最近ではシックハウス症候群やアレルギーなどの原因が、自分が住んでいる家なのではないかと病気になっている人が敏感に気がつくんです。土壁や自然素材の良さに気がついて、新建材の家をなんとかしたいと。マンションやアパートのクロスの上に漆喰を塗ることもあります。

 日本の気候風土にあった、人にやさしい日本の家を取り戻すため、土壁に戻さないといけないのではないか、と危機感をもっています。そんな健康上の相談も多くなってきたので、自分のことを「土のお医者さん」と呼ぼうかなと思っているんですよ。

“土を操る”のが左官職人の技

 この現場は、小舞(竹などを格子状に編んだ下地)を組むのに3人で2週間、下面を塗って乾くのに3ヶ月くらい。その間に大工さんが造作に入ります。

 大直しが3、4人で1週間くらい。さらに乾くのに2~3週間待って、中塗り。下地になるほど土は粗くて藁は長く、表面になるほど細かくて短い。丁寧な仕事が求められます。
仕上げが漆喰の場合はさらに手間がかかり2週間ほどかかりますね。

 

 施工に人手と時間はかかりますが、実際に住むとその違いを実感してもらえると自信があります。 左官職人は、素材の土を調合できる調理師のようなもの。素材をコントロールして、作ってしまう。経験と実績で土の癖がわかるんです。

 ヨーロッパでのワークショップでは、はじめての土の癖も解って驚かれましたね。 土を操って、光らせることができる。そこに職人としての魅力と面白さがあるんです。

左官職人が考えた「小さな野菜蔵」が大ヒット

 
 

 身近なところから「土」の良さを知ってもらおうと、「野菜蔵」を商品化したところ人気商品になりました。 畑から採って来たものを、そのままの状態で新鮮に保存できたらと考え、土がこぼれても気にならない手軽な「野菜蔵」を考案しました。 キットと完成品があり、作り方は動画でも紹介しています。

 実際、土を触って作るのも楽しいんですよ。捨てられるものを左官の力で再生させたくて、ワインの木の空き箱を利用しています。 クラウドファンディングでは150%を超える達成率でした。NHKの番組や雑誌でも取り上げられて、今でも生産が追い付かないくらい人気の商品です。 野菜が気持ちよければ、人間も気持ちいいんです。

 他にも、「土かまど」や「シューズセラー」「短冊」などを商品化しています。 いいか悪いかは世の中が判断してくれるから、自分がいいと思ったものはどんどん作ってみる。 いろんな可能性を模索しています。 生活の中で「土」をどう活用できるかを常に考えています。

蒼築舎・松木憲司

1963年 東京都西日暮里生まれ
1978年 左官職人に弟子入り21歳で独立
1996年 第33回全国左官技能競技大会優勝
2006年 全国技能士会連合会マイスター受賞
2013年 厚生労働省表彰「現代の名工」受賞
2015年 イタリア ミラノ万博出展
2018年 黄綬褒章受賞


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