保育・太田さん

保育・太田さん
保育・太田さん

太田さんから、子供の保育環境について、大切なことをたくさん学びました。
最初に保育園を設計させていただいてから、もう30年くらいになります。
太田さんは、18年間保育園の職員をされて、その後今の学童に移られました。
改めて、長年保育に携わって来た保育のプロフェショナルに、お話しをお聞きしました。

大切なのはどんな子どもを育てたいか

若い頃は、書店の子会社で、料理の専門書を販売していました。カラー豪華版4巻セットで10万円くらいの本を寅さんみたいなカバンもって全国回っていました。ホテルや料亭など100人くらい料理人がいるようなところに飛び込みで営業していた。おかげで度胸だけは付いたかな。

保育園を建てることになって、建築の専門的なことがわからないから、とにかくいろんな保育園に行って聞いて回ったのは、その頃の経験が役に立ったんだろうね。保育園を建てるまでの準備に、30カ所くらいは見学に行ったかな。大阪、名古屋、京都を中心にずいぶん保育園に見学に行きました。京都だけでも10カ所くらい。大阪にもずいぶん行きました。東京の自由学園も見に行ったね。有名な建築家の先生が作った建物もずいぶん見に行き、京大の先生などたくさんの人にいろいろ聞きました。立派な先生ばかりでしたよ。

それまで無認可の保育園で、スペースは狭いし、遊具も何もなかったので、見学に行って便利なものを見ると、欲しくなるんですよ。あれが欲しい、これが欲しいと言っていたら、ある先生から、「気持ちはわかるが、大事なのはどういう保育をしたいか。どんな子どもに育てたいか。それを一生懸命考えなければいけない。いろんな建物や施設を見て、いいところだけつまみ食いしても絶対に失敗するよ」と言われたんです。

こだわった自然環境

見学に行くことで教えてもらったことがいっぱいあって。床暖房がいいなぁと思っていたら、「子どもをそんなに甘やかしてどうするんだ」と住職の先生に言われたり。ただ、幼児の生活はハイハイが中心なので、床が冷たかったらいけない、とも言われ。ヒーターの風が埃と一緒に舞うのはどうかと思い、やはり床暖房にしました。その当時はなかなか床暖房がなかったので、実際に工場まで見学に行きました。

乳児の部屋はお日様が欲しいと2階にしました。でも、自然もほしいと2階に土を入れて園庭にしたり。素人集団がああしてほしい、こうしてほしいと好き放題言っていて、そんなばらばらの要求を根気強く聞いてくれたが、安井さんだったんですよ。スロープの角度などもわからなかったけど、安井さんが丁寧に説明してくれて。

あと、お昼をシーンとしてお行儀よく整然と食べている子どもたちを見て、うちの子たちには、もっと楽しく食べてほしいと思って、食堂を作ったり。広い縁側のような檜のテラスを作ったら、子どもたちはそれだけで大喜びしていた。

自然環境のよいところで、子どもたちを思い切り遊ばせてあげたいとの思いもあって。いつも子どもたちと遊んでいる森があって、そのそばに建てることが決まった時に動き始めました。場所(土地)は大事ですね。

“食う、寝る、遊ぶ”を大事にした保育園

食を大事にした保育園にしたいと思って、保育園に魚屋さんを呼んで、園児たちが見ている前で解体してもらって、園庭でちゃんちゃん焼きをするんです。1歳児も2歳児も静かにみている。最後に卵が出てくると、みんなホッとする。秋刀魚の時期にはひとり1匹づつ焼いてます。

「自分で見て、考えて、意見を言える子」に

どこの保育園もどういう子どもに育てたいか理念は同じようなことが書いてあって、「元気で仲良く遊ぶ子」とか「友達にやさしい子」とかになりがち。ここは「自分の意見がちゃんと言える子」なんですよ。

共働きの両親が多いこともあるけど「自分でよく見て、よく考えて、ちゃんと自分の意見を言える子」。しっかり遊んで、一杯ご飯を食べて、ぐっすり寝る。食う、寝る、遊ぶの基本的なことが子どもたちにとっては一番大事だと。これが人間の元なんだと。

保母さんたちの働く環境も改善したいと思っていました。保母さんは、抱っこしたり授乳することで腰痛になることが多くて。見学した中に授乳するときに座りやすい専用の授乳椅子があったので、家具を探して取り入れたりしました。

また、共同保育所のみんなで力を合わせて子育てしているのを、何か形にしたいと思って囲炉裏を作りました。最初、保母さんたちは、火傷の危険もあるし反対した。女性は現実を語りますから、これは男のロマンということで押し通しました。もちろん、火が届かないように工夫をした。自在鍵で鍋をつるして、いつも暖かいみそ汁を食べていた。それが保育園のシンボルになって、学童ではかまども作りましたが、もう当たり前のような感覚でした。

保育園から学童へ 新たなチャレンジ 子どもが「ほぉ~」となれる場所。

今は学童も習い事の一環にしているところもある。塾やスイミングや空手、サッカーなどいくらでもある。習い事が多くて、いそがしい。息を抜けるのが学童しかない。

最近は学校と連携して、学校の敷地内に学童を作ることが多いが、学童は学校から解放されて、自由にできる場にしたいと考えている。宿題もやりたい子がやればいい。


子どもが「ほぉ~」とできる場所にしたい。ちょっとした空間が、子どもたちの落ち着ける場所になる。木造、テラスがあったり、縁側があったり。なかなかこんなに開放的な場所はないですよ。学童で英気を養って、明日頑張るぞ、と思える場所に。

長い付き合いの中で感じる安井さんの魅力

とにかく僕らがやりたいことを、空間や形にしてくれる。本当に誠実で、根気がいることをやってくれる。図面は1枚書いて終りではない。むしろそこからはじまりなのに、丁寧に私たちの要望を聞いてくれた。言葉だけでは伝わらないことを、きちんと実際に一緒に見に行ってくれた。

あと、表現がうまい。文章も。一緒に見学に行くことで、「保育をする側の視点を見つけられた。自分が知らないことを自分だけでは見えないことを、見せてもらった」と文章に表現してもらえて嬉しかった。

一緒に保育園を見学に行って設計してもらって、その後も保育園の設計が依頼されるようになってきて、きっかけは私が作ったかもしれないけど、チャンスをものにできるのは人柄。とことんやりだしたらやる。それは、他の設計者にはない人柄ですよ。